フランス、パリ=サクレー大学の研究などが参加した国際研究グループは、BRCA1、BRCA2、ATMのいずれかの遺伝子変異を有し、第2世代アンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)による治療後に病勢進行した転移性去勢抵抗性前立腺がんを対象としたPARP阻害剤ルカパリブ(rucaparib、商品名Rubraca)の有効性を検討する試験TRITON3試験の結果を発表した。
論文の要点をまとめると次のようになる。
この無作為化対照第3相試験では、270人がルカパリブ投与群に、135人が対照薬(ドセタキセルまたは第2世代ARPI)投与群に割り付けられた。
主要評価項目は、画像ベースの無増悪生存期間とされた。
結果として、画像診断に基づく無増悪生存期間は、薬剤投与を受けた全員を分析対象にした結果(intention-to-treatグループ)において対照薬よりもルカパリブの方が有意に長かった(10.2カ月 対 6.4カ月)。BRCA遺伝子変異のあるサブグループでも同様に対照薬よりもルカパリブの方が有意に長かった(11.2カ月 対 6.4カ月)。ATM遺伝子変異のあるサブグループでは有意差はないもののルカパリブの方が長い傾向が確認された(8.1カ月 対 6.8カ月)。
以上が論文の要点である。
PARP阻害薬は、継続的に前立腺がんに対する治療効果が報告されている。体の中には、「細胞」と呼ばれる小さなものがあり、体が正常に働くよう助けてくれているが、時々、これらの細胞は急速に成長および増えて、がんと呼ばれる病気になることがある。
細胞内のDNAが損傷して、がんなどの問題を引き起こすためだが、PARP酵素はDNAの修復する酵素として機能している。一見すると、DNAを修復するので好ましいようにも見えるが、実際にはこの修復の仕組みによってがん細胞の生存を助けている場合があり問題になる。そこでPARP酵素を阻害することで、がんの生存を抑え込むことが治療につながる。その効果を持つのがPARP酵素阻害薬(PARP阻害薬)である。
PARPは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼの略称である。
今回、発表されたルカパリブは、クロビスオンコロジー社が開発したが、この会社は昨年倒産した。
もっとも経営を継続するための支援を受ける方向と報じられているが、PARP阻害薬が多数の会社から売り出され、その競争が激しくなっていることが背景にある。
今後国際的に活用されれば、会社が息を吹き返す可能性もあるだろうが、がん治療も同じ仕組みで効果を発揮する薬が集中して世に送り出される側面がある。薬の効果が続々と確認されているのは歓迎すべきことであるが、開発する企業にとっては難しい局面が続きそうだ。
参考文献
Fizazi K, Piulats JM, Reaume MN, Ostler P, McDermott R, Gingerich JR, Pintus E, Sridhar SS, Bambury RM, Emmenegger U, Lindberg H, Morris D, Nolè F, Staffurth J, Redfern C, Sáez MI, Abida W, Daugaard G, Heidenreich A, Krieger L, Sautois B, Loehr A, Despain D, Heyes CA, Watkins SP, Chowdhury S, Ryan CJ, Bryce AH; TRITON3 Investigators. Rucaparib or Physician’s Choice in Metastatic Prostate Cancer. N Engl J Med. 2023 Feb 16. doi: 10.1056/NEJMoa2214676. Epub ahead of print. PMID: 36795891.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36795891/
米クロビス、連邦破産法11条の適用申請 がん治療薬の販売不振でhttps://jp.reuters.com/article/clovis-oncology-bankruptcy-idJPKBN2SW0BX