ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV)の実態についての研究が報告されている。ブラジルは、世界の中でもHTLV-1/2の保有率が高い国となっている。今回の研究は、ブラジルの保健省健康監視局が発行した「性感染症(STI)患者の包括的ケアのための臨床プロトコールおよび治療ガイドライン(PCDT)」を構成するために検討されたもの。
HTLVは、レトロウイルス科デルタウイルス属。HTLV-1/2以外にもHTLV-3/4があり、中央アフリカやカメルーンで報告されているが、臨床症状との関連はまだない。
HTLV-1/2の感染は、体液(血液、精液、膣分泌液、母乳)中に存在する感染したリンパ球が、血液やその誘導体の輸血、静脈内麻薬の使用、臓器移植、無防備な性交渉、および垂直感染によって伝播することで起こる。
垂直感染は、胎盤ルート、出産時、そして主に授乳によって起こる。HTLV-1のプロウイルス量と曝露時間は、特に性交時や授乳時の感染リスクの増加に関係している。スクリーニングや白血球除去により、血液やその誘導体の輸血に関連するリスクは大幅に減っている。
性的接触は、都市部、農村部、先住民族の地域におけるHTLV-1およびHTLV-2の重要な伝播経路。都市部では、女性からの感染が最も多い。先住民族のコミュニティでは、感染効果に男女の差は見られない。
ブラジルでは、地理的地域や行動上の危険因子に応じて、一般人口の0.01~1.35%の範囲で頻度が変動。ウイルスに感染しやすいグループは、静脈内麻薬使用者、性産業従事者、男性と性交渉を持つ男性、1993年以前に輸血を受けた人、HTLV感染が判明している人の性的パートナーなど。
適切な集団研究がほとんど行われていない。HTLV-1/2に関する疫学的情報の大部分は古い研究に由来し、発生率や有病率が十分に定義されていないことが多い。矛盾した結果が得られ、正確な予防・制御策を定義することができないとする。
レトロウイルスは、感染した細胞の核酸と融合。ウイルス慢性感染して、悪性疾患である成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)や、神経変性疾患であるHTLV-1関連脊髄症(HAM)の原因になる。目、皮膚、肺、関節、甲状腺、心臓、腸、膀胱などで重要な臨床症状が認められる。
日本では100万人以上のキャリアーがおり、ATLの発症率は1000人/年あたり0.6~0.7と紹介する。発症リスクは男性の方が高く、症状は感染から20~30年後に開始。ATLはまれに30歳前に発症する。日本では、ATLの発症確率は5%とする。危険因子は母親からの感染、高齢、末梢血中のプロウイルス量の増加、ATLの家族歴、抗HTLV-1抗体の陽性反応歴。ATLは他の国では2%にも達しないまれな疾患。
HTLV-1感染症の治療は合併症に向けた介入になる。2016年にはConitec、2019~2020年には国際レトロウイルス学会がATLとHAMの治療に関する推奨事項を発表。インターフェロンαに伴うジドブジンの使用は、MS/SVS Portaria no.54の発表により、ATLの治療に認可。治療レジメンは、臨床症状、症状の進行、現地での薬剤の入手状況によって異なる。感染者は、専門のサービスに同行して心理的なサポートを受ける必要があり、特に感染に伴う臨床症状の早期診断に注意を払う必要があるとする。
数十年前に記述されたにもかかわらず、HTLV感染症は一般の人々や医療専門家には比較的知られていないという。感染者を支援するサービスでは、病気になるリスクの側面だけでなく、感染の伝播を防ぐことにも焦点を当てたアプローチが必要である。HTLV-1/2感染の陽性診断を受けた後、性的パートナーに血清学的スクリーニングを受けるよう勧めるべきで、陽性診断を受けた者は、カウンセリングと適切なフォローアップのために紹介が必要とする。カウンセリングには、感染の慢性化と長期の臨床的フォローアップの必要性に関する情報を含めるべきだとする。初期の臨床症状とその進行、感染メカニズム、予防法などを明確にすることが重要。血液、精液、固形臓器や組織の提供、授乳はしようように強く推奨されている。
2021年5月、英国、ブラジル研究。
Rosadas C, Brites C, Arakaki-Sanchez D, Casseb J, Ishak R. Brazilian Protocol for Sexually Transmitted Infections 2020: human T-cell lymphotropic virus (HTLV) infection. Rev Soc Bras Med Trop. 2021 May 17;54(suppl 1):e2020605. doi: 10.1590/0037-8682-605-2020. PMID: 34008723.