自閉スペクトラム症の子どもは、食事内容とは無関係に、特徴のある未発達な腸内細菌叢を持っているようだ。自閉スペクトラム症ではない子どもの腸内では一般的に見られない5種の細菌が同定されたほか、神経伝達物質の合成に関与する細菌が少なかったという。早期治療につながる可能性がある。
香港中文大学などの研究グループが、消化器/肝臓学の専門誌『Gut』で7月に発表した。
腸内細菌叢は年齢と共に成熟
自閉スペクトラム症に関しては、過去の研究から、遺伝子要因のほかに腸内細菌叢の関与が示唆されている。
腸内細菌は、中枢神経系との双方向情報伝達経路である「脳腸相関」と呼ばれる仕組みにより、脳の機能や社会的行動に重大な影響を与えている。
一般的な子どもでは、腸内細菌叢は年齢と共に発達し、体だけでなく認知機能の発達にも密接に関係することが明らかにされているが、自閉スペクトラム症の子どもにおける腸内細菌叢の発達に関するデータは乏しい。
このたび研究グループは、中国人の子ども(3〜6歳)で自閉スペクトラム症の64人と、普通に発達していて年齢・性別がマッチする64人を対象として、便サンプルの高被覆度メタゲノムシーケンシングにより、腸内細菌の構成や機能を比較した。
一般的な腸内細菌叢の発達と異なる
こうして判明したのは、自閉スペクトラム症と年齢が腸内細菌の構成に最も強く関連し、食事は影響しなかったことである。自閉スペクトラム症の子どもは普通に発達した子どもに比べて細菌の種類が多く、構成も異なっていた。
自閉スペクトラム症の子どもでは、特徴的な5種の細菌(アリスティペス・インディスティンクタス、ストレプトコッカス・クリスタタスなど)が同定されたほか、フィーカリバクテリウム属が少なく、中枢神経系の損傷につながる毒素を持つクロストリジウム属やディアリスター属などが多かった。
これらの差異は、別の18人(自閉スペクトラム症の子ども8人と普通に発達した子ども10人)でも確認された。
重要な点として、自閉スペクトラム症の子どもでは神経伝達物質の合成に関わる細菌が極端に少なかった。
また、普通に発達した子どもでは、年齢ごとに一般的な発達の指標となる細菌26種が同定されたが、自閉スペクトラム症の子どもでは認められなかった。
今回の研究は小規模であり、また腸内細菌叢は世界の地域によって異なる可能性があるものの、自閉スペクトラム症の子どもでは腸内細菌叢の発達異常が見られ、同症状の病因に重要な役割を果たしている可能性があると研究グループは結論。
年齢に相応した便中細菌マーカーと細菌叢の様相は、自閉スペクトラム症の非侵襲的な予測方法になり得るのではないかと指摘し、幼少期の腸内細菌叢の再構成や神経伝達物質の合成に関わる細菌を増やすことを、将来の治療法として探求してはと提案している。