心筋梗塞などの心臓発作を起こした後に体が心臓を修復する際、脾臓が脂質メディエーター「スフィンゴシン1リン酸(S1P)」を通じて心臓と協働していると分かった。心不全の新たな治療法につながる可能性がある。
サウスフロリダ大学など米国機関、および日本の札幌保健医療大学の研究グループが、循環器系生理学の専門誌『American Journal of Physiology – Heart and Circulatory Physiology』で8月に発表した。
心筋梗塞後のマウスでS1Pを測定
脾臓は免疫系の一部として感染に対する防御に寄与し、血液の濾過や赤血球の新陳代謝などの役割を担う。
病気や事故による摘出などで脾臓を失っても、生きていくことができるものの、やはり感染リスクは上がるうえ、虚血性心疾患のリスク増加につながるという報告もあり、生理学的な防御機能における脾臓の重要性を示す証拠が集積しつつある。
今回の研究グループは、心臓発作が鎮まった後でも消えない炎症の治療法や予防法の発見に取り組んでおり、心不全、炎症の調節不全、脂肪酸の関連性を明らかにしている。このたびは、炎症反応における生理活性脂質メディエーター、S1Pに着目した。
S1Pの調節不全は心不全の原因であり、治療標的になる可能性も指摘されている。
研究グループは、虚血状態(心不全)と健康な状態の人間の心臓でS1Pを測定したほか、健康な若いマウスで心筋梗塞の手術を行い、心筋梗塞後の血漿、心臓、脾臓のS1Pを測定して、急性心不全から慢性心不全に移行する際の脾臓と心臓におけるS1Pの相互作用を分析した。
マクロファージのS1P受容体活性化を確認
こうして判明したのは、心筋梗塞後のマウスにおいて、心臓と脾臓の両方でS1Pが活性化されて、心臓の生理学的な修復が促進されたことだ。
急性心不全から慢性心不全の状態において、両方の臓器でS1Pとその受容体(S1PR1)のシグナリングが増えて心臓発作後の修復を促進していた。
心不全急性期には血漿S1Pが増加し、心臓の修復が示唆された。虚血性心不全の人間の心臓では、S1PとS1PR1が減少した。また、マウスの細胞では、炎症を鎮めて組織の修復を助けるマクロファージにおいてS1P受容体が選択的に活性化され、炎症性バイオマーカーを抑制して、心臓修復性のバイオマーカーが促進された。
心臓の修復において、心臓と脾臓がS1PおよびS1PR1を通じて協働していることになると研究グループは説明。心臓発作後、S1Pレベルの低下が早期に検出された場合、集中的なS1Pの活性化により、心不全のリスクが高い患者の心臓を保護できる可能性があると指摘している。