新型コロナウイルス感染症を抑制するための集団予防接種サイトのイノベーションについての寄稿が報告されている。
米国では2021年1月11日までに2210万回分のワクチンが配布され、接種数は670万回にとどまったと振り返り。当初は、クリニック、薬局、地方自治体の公衆衛生担当者など、地域に密着した既存の医療機関を活用してワクチンを接種していたと説明。
それに対して、「従来の医療機関を利用するだけでは、パンデミックを阻止するのに十分なスピードでワクチンを接種することはできない」と指摘。従来型の接種会場に加えて、スタジアム、アリーナ、コンベンションセンターなど「ハイスループットな大規模会場での集団接種」を組み合わせたハイブリッドアプローチが不可欠と説明する。
理由は次の通り
- 国民全体にワクチンを接種するための大規模な働きかけが必要であること。働きかけがプライマリーケアの現場では行えないと説明する。
- 新しいワクチン登録ソフトウエアシステムを迅速に統合するのが難しいと指摘する。
- 接種可能な状態でワクチンを維持し続けて、接種件数の追加に対応していかなければならないこと。ワクチンが不足する中で、すべてを使い切る必要があると説明する。
- 2回接種方式のワクチンを受けた人が、2回目のスケジュール管理をする必要がある点も挙げる。欠席時のフォローアップも必要だとしている。
- 急性アナフィラキシーの治療能力を保つ必要があり、ワクチン接種後15~30分間は物理的に離れた場所で観察する必要がある。スペースや臨床スタッフが限られている小規模な診療所にとっては課題になる。
- 最初に承認されたワクチンの冷蔵保存条件(モデルナ社は-20℃、ファイザー社は当初-70℃)と盗難に対するセキュリティは、ほとんどの医師の診療所にとって大きな課題になる。
- 予防接種の償還額が限られているため、小規模な診療所では、既存の診察以外でワクチン接種を行う経済的に実行可能なモデルを開発できない可能性があると指摘。例えば、現在のメディケアの保険償還は1回目が17ドル、2回目が28ドル。数量が限られている場合、要件を満たすための準備コストをカバーするには十分ではないと説明する。
集団予防接種会場は、こうした課題を解決するための論理的なソリューションになると指摘している。
米国においては、マサチューセッツ州のジレット・スタジアム、カリフォルニア州のドジャー・スタジアム、アリゾナ州のステート・ファーム・スタジアムなど、多くの会場が開設されたと紹介。イスラエル、イタリア、イギリス、ドイツでは、スタジアム、アリーナ、スケートリンク、大聖堂、町の広場、博物館などに集団予防接種会場を設置しているとする。
「アーリーアダプター」は、集団でのワクチン接種を実現するために重要ないくつかの教訓をもたらしたとする。一つは、医療以外の分野のイノベーションや専門知識を活用したパートナーシップが重要だと指摘。例えば、寄稿者が参加したジレットの集団予防接種サイトでは、カスタマージャーニーやエクスペリエンスデザイナー、システムエンジニア、メディカルディレクター、情報科学者、臨床・非臨床スタッフやスケジュール管理の専門家、救急医療サービスの専門家、感染予防担当者、コミュニケーションの専門家など、ワクチン提供のあらゆる側面に対応できる専門家が集まったとする。
一方で、サウスカロライナ州のドライブスルー型のワクチン接種所が渋滞して何時間も待たされたときには、ファーストフード店の店長に連絡を取り、接種会場のスループットを迅速に評価および改善してもらったとする。
ワシントン州では、スターバックス、マイクロソフト、コストコと提携して模擬予防接種会場を建設。流れをテストしてボトルネックを特定。オペレーションを強化したといいう。長年の地域社会の利害関係者と緊密に連携し、公衆衛生当局の適切な監督を受ける必要があるとする。
2021年3月、米国寄稿。
Goralnick E, Kaufmann C, Gawande AA. Mass-Vaccination Sites – An Essential Innovation to Curb the Covid-19 Pandemic. N Engl J Med. 2021 Mar 10. doi: 10.1056/NEJMp2102535. Epub ahead of print. PMID: 33691058.