高齢者に多く見られる「認知的なフレイル」の対応策としてバーチャルリアリティ(VR)による運動認知同時トレーニングは、実現可能で安全な方法になりそうだ。
高齢者が実環境を模した仮想空間で日常動作を行うことができる、VRを用いた運動認知機能同時トレーニングプログラムのパイロット無作為化対照試験によってその有効性に関する予備的な証拠が提供されている。
香港の研究グループが、モバイルヘルス専門誌『JMIR Serious Games』で2021年8月に発表した。
VRによる運動認知同時トレーニング
フレイルは、身体的、精神的、社会経済的に弱い状態になること。研究グループによると、認知的なフレイルとは、身体的なフレイルと認知機能障害が併存する状態をいう。これは多くの健康上の悪影響と関連している。高齢者には認知的なフレイルが多く見られ、運動認知トレーニングは認知機能と身体機能の向上に有効という。
研究グループは、実環境を模した仮想空間で日常動作を行うことができるVRを用いた運動認知機能同時トレーニングプログラムを提案、パイロット無作為化対照試験等を用いて検証を行った。
その目的は(1)認知的なフレイルの状態にある高齢者にVR同時進行の運動認知トレーニングを提供することの実現可能性を探り、(2)認知的なフレイルの状態にある高齢者の認知機能と身体機能に対する、地域における既存の運動認知トレーニングプログラムとの効果を比較することである。
2群(1:1)、評価者盲検法、並行デザイン、無作為化対照試験を採用した。参加者の資格基準は (1)60歳以上、(2)地域居住者、(3)認知機能低下を伴う者。介入群は、VRプラットフォーム上で、高齢者の日常生活動作を模倣した認知トレーニング(認知ゲームなど)と運動トレーニング(エルゴメーターでのサイクリングなど)を同時に行った。
対照群は、タブレット端末を用いた認知トレーニング(認知ゲームなど)と、VRではないプラットフォームを用いた運動トレーニング(エルゴメーターでのサイクリングなど)を順次実施した。両群とも、30分のセッションを週2回、8週間にわたって受けた。実現可能性は、順守(アドヒアランス)、有害転帰、学習の成功によって測定した。結果(アウトカム)は,認知機能,身体的虚弱度,歩行速度とした。
17人の参加者を募集し、対照群(n=8)または介入群(n=9)のいずれかに無作為に割り付けた。ベースライン時の年齢の中央値は74.0歳(IQR 9.5)、モントリオール認知機能評価スコアの中央値は20.0(IQR 4.0)であった。ベースラインの特徴では、慢性疾患の数(P=.04)を除き、グループ間に有意な差は認められなかった。
実現可能性と安全性を確認
検証の結果は、介入後には、介入群(Z=2.67、P=.01)は対照群(Z=1.19、P=.24)よりも有意に大きな認知機能の改善を示しVRによる運動認知同時トレーニングが、認知的なフレイルの状態にある高齢者の認知機能を高めるのに有効であるという予備的な証拠を得られた。
介入群の身体的フレイルの減少(Z=1.73、P=.08)は、対照群の減少(Z=1.89、P=.06)と同様。TUG(Timed Up-and-Go)テストに基づく歩行速度の改善は、介入群では中程度(Z=0.16、P=.11)、対照群ではより大きかった(Z=2.52、P=.01)。採用率は許容範囲内であった(17/33、52%)。身体的なフレイルに対する効果の大きさは、有意水準にやや足りず、対照群で観察されたものと同様であった。
VRトレーニングは、認知的なフレイルを有する高齢者にとって実現可能で安全であると研究グループは指摘している。