技術technology_banner

STELLANEWS.LIFE(ステラニュース・ライフ)は、がん分子標的治療の進化を追う専門ニュースを配信している。今回は、バイエルとKumquat Biosciencesが共同開発するKRAS G12D阻害薬の初の臨床試験開始を紹介する。

  • 【要点①】KRAS G12D変異を標的とする新薬KQB548(BAY 3771249)が第1相試験を開始
  • 【要点②】KRAS変異はヒトがんの約25%に存在、特にG12D変異は有効治療が未確立
  • 【要点③】試験は膵がん・大腸がん・肺がんを対象に安全性と初期有効性を評価

2025年10月8日、バイエル(Bayer AG)とKumquat Biosciences Inc.(本社:米国サンディエゴ)は、KRAS G12D変異を有する固形がんを対象とした第1相臨床試験(NCT07207707)の開始を発表した。治験薬はKQB548(開発コード:BAY 3771249)であり、KRAS経路のうち最も治療困難とされるG12D変異を標的とする経口分子標的薬である。

KRAS変異はヒト腫瘍全体の約25%に認められ、特にG12D変異は膵臓がんの約37%、大腸がんの13%、非小細胞肺がんの4%に存在する。これらの腫瘍は高い悪性度と薬剤耐性を特徴とし、長年「ドラッガブルではない(治療標的にできない)」とされてきた。

今回開始された第1相試験は「first-in-human」試験として、KRAS G12D変異を持つ進行がん患者を対象に、KQB548単剤の安全性、忍容性、薬物動態および初期の抗腫瘍効果を評価する。試験の主要目的は安全性評価であり、併せて推奨用量の決定を目指す。

バイエル製薬部門研究開発責任者のドミニク・リュッティンガー博士は、「KRAS経路はがん治療の『最後の難関』とされてきた。KQB548は精密腫瘍学(precision oncology)の可能性を広げる重要な一歩だ」と述べた。

Kumquat Biosciences臨床開発担当副社長ニコラス・アクアヴェッラ博士は、「KQB548は膵がんや肺がんなど致死性の高いKRAS変異がんに対する治療のパラダイムを変える可能性を秘めている」と語っている。

KQB548は、バイエルとKumquatによるグローバル独占ライセンス契約に基づき共同開発されており、2025年7月に米国FDAより治験開始(IND)承認を取得している。

  • 発表元→ Bayer AG(ドイツ・ベルリン)/Kumquat Biosciences Inc.(米国・サンディエゴ)
  • 発表日→ 2025年10月8日
  • 治験段階→ 第1相臨床試験(first-in-human, dose-escalation study)
  • 試験番号→ NCT07207707
  • 治験薬→ KQB548(BAY 3771249)
  • 標的変異→ KRAS G12D(最も発がん性の高いKRAS変異)
  • 対象疾患→ KRAS G12D変異陽性の膵がん・大腸がん・非小細胞肺がん
  • 主な開発目的→ 安全性・忍容性の評価、初期有効性の探索
  • IND承認→ 米国FDA(2025年7月)
  • 提携概要→ バイエルとKumquatによる精密腫瘍学分野の独占共同開発契約

AIによる情報のインパクト評価(あくまで参考として受け取ってください):

★★★★★

KRAS G12Dはがん治療の「最後のフロンティア」と呼ばれる難標的であり、今回の試験開始は腫瘍分子治療の歴史的転換点といえる。バイエルとKumquatによる協業は、精密腫瘍学と創薬AIを融合させた新たな治療開発モデルを象徴している。

参考文献

Bayer AG. “Bayer and Kumquat Biosciences initiate Phase I study with KRAS G12D inhibitor in patients with KRAS-mutated tumors.”
https://www.bayer.com/media/en-us/bayer-and-kumquat-biosciences-initiate-phase-i-study-with-kras-g12d-inhibitor-in-patients-with-kras-mutated-tumors/

Singhal, A., Li, B.T. & O’Reilly, E.M. “Targeting KRAS in cancer.” Nature Medicine 30, 969–983 (2024).

Herdeis, L. et al. “Stopping the beating heart of cancer: KRAS reviewed.” Current Opinion in Structural Biology 71:136–147 (2021).

KRAS変異がんの分子標的治療開発を象徴するイメージ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です