STELLANEWS.LIFE(ステラニュース・ライフ)は、科学技術・医療・ライフサイエンスの分野における研究成果を、中立的かつ正確に紹介するニュースメディアである。東京大学、星薬科大学、理化学研究所、JCRファーマ株式会社の共同研究グループは、胃がんの腹膜播種に対して、幹細胞と放射性同位元素アスタチン-211(At-211)を組み合わせた新たな治療法の開発に成功した。本研究は、難治性の腹膜播種に対する治療の可能性を大きく拡げる成果である。今回の記事で伝える情報は次の通り。
- 【要点①】歯髄由来幹細胞(Dental pulp cell:DPC)に放射性元素アスタチン-211を取り込ませ、腹膜播種部位のがん細胞を標的破壊。
- 【要点②】改良型幹細胞にナトリウムヨウ素共輸送体(NIS)を導入することで、短時間でのアスタチン-211取り込みを実現。
- 【要点③】マウスモデルでがんの進行抑制と生存期間の有意な延長を確認。
胃がんが腹膜に転移して発生する腹膜播種は、外科手術や化学療法の効果が乏しく、長年新しい治療法の開発が求められてきた。研究チームは、歯から採取できる歯髄由来幹細胞に、アスタチンと同族の元素を効率的に取り込むNIS遺伝子を組み込み、腹膜播種部位で選択的に放射線を放出してがん細胞を殺傷する方法を確立した。
- 発表機関→ 東京大学、星薬科大学、理化学研究所、JCRファーマ株式会社
- 発表日→ 2025年10月18日
- 研究の目的→ 治療が極めて困難な胃がん腹膜播種に対する新しい放射線治療法の確立。
- 研究手法→ 歯髄由来幹細胞にNIS遺伝子を導入し、腹腔内に投与後、放射性同位元素アスタチン-211を投与。幹細胞内に取り込まれたアスタチン-211がα線を放出し、周囲のがん細胞を選択的に破壊。
- モデル動物→ マウス胃がん細胞株YTN16を用いた免疫保持マウス(C57BL/6)。
- 主要結果→ ・NIS-DPC細胞+At-211投与群で腹膜播種の顕著な抑制を確認。
・Kaplan-Meier解析により、生存期間が非投与群・遊離At-211群に比べて有意に延長。
・アスタチン-211はNIS-DPCに投与5分後に高率に取り込まれ、α線放出をリアルタイムで可視化。 - 技術的意義→ α線はエネルギーが高く、到達距離が約100μmと短いため、正常組織への影響を抑えつつがんを高精度に破壊可能。
- 臨床的意義→ 他人由来DPCの利用が可能であり、患者ごとの細胞調製を必要としない治療基盤となり得る。
- 将来展望→ 法規制の整備により、外来治療や在宅点滴治療への応用の可能性も示唆されている。
- 研究助成→ 科研費・上原記念生命科学財団・中谷医工計測技術振興財団の支援による。
AIによる情報のインパクト評価(あくまで参考として受け取ってください):
★★★★★
標的α線治療と再生医療を融合させた世界初の試みであり、胃がん腹膜播種という難治性疾患への治療選択肢を根本から変える可能性がある。
参考文献
東京大学ほか:「胃がん腹膜播種への新たな治療法を開発 ―幹細胞とα線を組み合わせた新アプローチ―」
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400272699.pdf
Nomura S. et al. Novel therapy for gastric cancer peritoneal dissemination using genetically modified dental pulp cells and astatine-211 (preprint).
https://doi.org/10.1101/2025.10.15.682497
