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STELLANEWS.LIFE(ステラニュース・ライフ)は、感染症および医薬品開発の最新研究成果を伝える科学メディアである。 今回は、米国メルク社(Merck & Co., Inc., MSD社〈米国・カナダ以外〉)が2025年10月15日に発表した、 新しい経口2剤併用HIV治療レジメン「ドラビリン/イスラトラビル(DOR/ISL)」の第3相試験追加データについて報告する。 本研究は、欧州エイズ会議(EACS 2025, パリ)で発表され、体重・脂質・代謝への影響が極めて小さいことが示された。

  • 【要点①】経口1日1回投与の2剤併用「DOR/ISL」がウイルス抑制維持を確認。
  • 【要点②】体重・脂質・インスリン抵抗性に臨床的に有意な変化なし。
  • 【要点③】安全性は良好で、既存3剤療法(BIC/FTC/TAF)と同等。

メルク社は、第3相試験「MK-8591A-051」および「MK-8591A-052」における追加解析結果を発表した。 対象は、既にウイルス抑制(HIV-1 RNA <50 copies/mL)が維持されている成人患者。 これらの試験で、DOR/ISL(100mg/0.25mg)に切り替えた群は、 従来の三剤療法(BIC/FTC/TAF)または既存抗レトロウイルス療法(bART)群と比較して、 体重、脂質、インスリン抵抗性において臨床的に有意な変化を示さなかった。

主要結果(第3相試験MK-8591A-052)

  • 対象: BIC/FTC/TAF療法で抑制中の成人(n=513)
  • 試験デザイン: DOR/ISL群(n=342)とBIC/FTC/TAF継続群(n=171)の二重盲検・無作為化比較
  • 主要評価項目: Week 48でのウイルス抑制維持率(非劣性マージン4%)
  • 体重変化: DOR/ISL群:−0.03 kg(95% CI: −0.54, 0.48) vs BIC/FTC/TAF群:+0.28 kg(95% CI: −0.32, 0.88)
  • 脂質変化: 総コレステロール、HDL、LDL、トリグリセリドいずれも群間差なし
  • HOMA-IR(インスリン抵抗性): 変化は最小で、群間差なし
  • 体重増加(5%以上): DOR/ISL群14.6%、BIC/FTC/TAF群16.0%
  • 安全性: 重篤な有害事象(SAE)や中止率は両群で同程度(約1%)

主要結果(第3相試験MK-8591A-051)

  • 対象: 既存ART(bART)でウイルス抑制中の成人(n=551)
  • デザイン: オープンラベル無作為化比較(DOR/ISL: n=366, bART: n=185)
  • 結果: 48週時点でウイルス抑制率は両群同等、抵抗性変異なし
  • 代謝指標: 空腹時脂質・血糖・HOMA-IRいずれも有意差なし
  • 有害事象(発現率≥1.5%): 下痢(3.3%)、倦怠感(1.9%)、めまい(1.9%)、体重増加(1.6%)など
  • 重篤有害事象による中止: なし

専門家コメント

Dr. Chloe Orkin(ロンドン・クイーンメアリー大学):
「体重や体組成の変化はHIV治療中の患者にとって重要な懸念事項です。 DOR/ISL試験の結果は、スイッチ後48週時点での体重・体脂肪変化が最小であることを示し、 既存療法との同等性を裏付けています。」

Dr. Eliav Barr(メルク・チーフメディカルオフィサー):
「今回のデータは、HIV-1抑制下にある成人でのDOR/ISLスイッチが、 体重・脂質に影響を及ぼさないことを示しています。 長期的な併用療法最適化の重要な一歩となるでしょう。」

イスラトラビル(Islatravir)について

イスラトラビル(MK-8591)は、メルク社が開発中の新規ヌクレオシド逆転写酵素トランスロケーション阻害薬(NRTTI)であり、 逆転写酵素の移動阻害および鎖終結を誘導する多段階作用を持つ。 強力な抗ウイルス活性と耐性プロファイルから、日1回または週1回のHIV治療・予防レジメンの基盤薬として研究が進められている。

現在、メルクはイスラトラビルを基軸とする複数の併用療法を第3相段階で開発中であり、 その中にはギリアド社のレナカパビルとの週1回経口投与レジメン(NCT05052996)も含まれる。

臨床的意義

現在のHIV治療は多剤併用が基本だが、服薬数や副作用の懸念から、 簡便で長期的に安定した2剤レジメンへの関心が高まっている。 DOR/ISLは、既存3剤療法に匹敵する抗ウイルス効果と良好な代謝安全性を示したことで、 「1日1回、2剤で維持可能なHIV治療」という新たな選択肢を提示した。

AIによる情報のインパクト評価(参考)

★★★★★(非常に高い)

この結果は、長期治療下のHIV患者における“スイッチ療法”の安全性を示す重要なエビデンスであり、 メルクのDOR/ISLが将来的に「低負担型維持療法」として承認される可能性を強く示唆している。

参考文献

Merck & Co., Inc. “Merck Announces New Data from Phase 3 Trials Evaluating the Investigational, Once-Daily, Oral, Two-Drug Regimen of Doravirine/Islatravir (DOR/ISL) in Adults with Virologically Suppressed HIV-1 Infection.” (発表日:2025年10月15日)
https://www.merck.com/news/merck-announces-new-data-from-phase-3-trials-evaluating-the-investigational-once-daily-oral-two-drug-regimen-of-doravirine-islatravir-dor-isl-in-adults-with-virologically-suppressed-hiv-1-infecti/

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