STELLANEWS.LIFE(ステラニュース・ライフ)は、がん領域における分子標的治療と臨床エビデンスの最新成果を伝える医療科学メディアである。 今回は、ノバルティス社(Novartis AG)が2025年10月17日に発表した、 CDK4/6阻害薬キスカリ(Kisqali, リボシクリブ / ribociclib)の 第Ⅲ相試験NATALEEにおける5年追跡解析の結果を紹介する。 同解析は、ホルモン受容体陽性 / HER2陰性(HR+/HER2−)早期乳がん(EBC)患者において、 キスカリ併用療法が再発リスクを28%低減し、広範な患者集団における有効性を確認したものである。
- 【要点①】5年追跡で浸潤性無病生存率(iDFS)を28.4%改善(HR=0.716)。
- 【要点②】遠隔無病生存率(DDFS)も29.1%改善、再発抑制が持続。
- 【要点③】治療完了後2年経過時点でも新たな安全性シグナルなし。
NATALEE試験は、HR+/HER2−のステージIIおよびIII早期乳がん患者を対象に、 キスカリ+内分泌療法(ET)とET単独を比較した国際共同第Ⅲ相試験である。 今回の5年解析(中央値追跡期間58.4か月)では、キスカリ併用群がET単独群に対し、 再発リスクを28.4%低減し、5年iDFS率85.5% vs 81.0%という有意差を示した。
主要結果(5年解析)
- iDFS: HR=0.716(95% CI: 0.618–0.829, p<0.0001)、再発リスク28.4%低下。
- DDFS: 29.1%の遠隔再発リスク低下。
- OS(全生存)トレンド: HR=0.800(95% CI: 0.637–1.003)、死亡リスク20%低減。
- サブグループ解析: ノード陰性(N0)群でも顕著な効果(HR=0.606, 5年絶対差+5.7%)。
- 安全性: 治療終了後2年経過時点でも新たな安全性シグナルは認められず。
サブグループ | ハザード比(HR) | 95%信頼区間 | 5年絶対リスク差 |
---|---|---|---|
全体集団 | 0.716 | 0.618–0.829 | +4.5% |
ステージII | 0.660 | 0.493–0.884 | +3.7% |
ステージIII | 0.730 | 0.615–0.865 | +5.6% |
リンパ節陰性(N0) | 0.606 | 0.372–0.986 | +5.7% |
リンパ節陽性(N1–3) | 0.737 | 0.631–0.860 | +4.4% |
専門家コメント
Dr. John Crown(セントビンセント大学病院 腫瘍内科):
「早期乳がんの患者にとって再発の恐怖は深刻な心理的負担です。 NATALEE試験の5年データは、リボシクリブが治療終了後も持続的に再発リスクを抑制し、 より多くの患者に“乳がんのない生活”をもたらす可能性を示しました。」
Dushen Chetty博士(ノバルティス 腫瘍・血液開発部門 責任者代行):
「キスカリは、HR+/HER2−早期乳がん治療の標準を再定義する可能性を持っています。 一貫した有効性と確立された安全性プロファイルにより、 長期的な疾患管理における信頼性がさらに強化されました。」
背景と臨床的意義
乳がんは世界で最も多いがんの一つであり、その約70%がホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性型である。 従来、内分泌療法(ET)のみでは高リスク患者における再発抑制が十分でなく、 再発後には転移性がんとして治癒が困難となる。 CDK4/6阻害薬キスカリは、細胞周期制御に関与するCDK4およびCDK6を阻害し、 腫瘍細胞増殖を抑制することで、再発防止を目的とする治療選択肢として確立しつつある。
安全性
治療終了後約2年の追跡期間においても、新たな安全性シグナルは報告されず、 副作用プロファイルは過去のMONALEESA試験群(進行乳がん対象)と一致した。 二次悪性腫瘍発生率はキスカリ群2.7%、ET単独群3.0%で、死亡に関連する事象は両群1例ずつであった。
AIによる情報のインパクト評価(参考)
★★★★★(極めて高い)
NATALEE試験は、CDK4/6阻害薬の中で初めて早期乳がん(EBC)における長期再発抑制効果を示した。 特にリンパ節陰性群にも有効性を示したことは、治療適応の拡大に直結する。 本結果により、リボシクリブは早期乳がんから進行乳がんに至る全ステージでの治療基盤を確立したと評価できる。
参考文献
Novartis. “Kisqali 5-year NATALEE data demonstrate 28% reduction in risk of recurrence in the broadest early breast cancer patient population.” (発表日:2025年10月17日)
https://www.novartis.com/news/media-releases/novartis-kisqali-5-year-natalee-data-demonstrate-28-reduction-risk-recurrence-broadest-early-breast-cancer-patient-population
